上原:小児科医として勤務されていて、特に問題に感じることはありますか? たとえば、小児科の医師が減っていると聞いていますが…。
早川:小児科学会が2005年4月6日に「病院小児科医の将来需要について」厚生労働省に答申を出したのですが、それを見ていただくとわかる通り数自体は微増ですが増えているんです。ただもともと絶対数が足りないから少し増えたくらいでは追いつかないわけです。「こどもが減っているから小児科医も少なくていいのでは」と思われるかもしれませんが、社会から求められる医療水準は年々高くなりますから人手はとても必要だし、特に小児科では救急での受診がとても増えているので大変なんです。たとえば、私が小児科の当直をしていると、救急受診者のだいたい半分は小児科の患者なんです。ところが、内科の当直はいろんな科のお医者さんができるけど、小児科の当直は小児科医がするしかないわけです。
上原:医大生の中には小児科医になりたいという人が激減しているそうですし、見通しははっきり言って暗いですね。何か手立てはないのでしょうか?
早川:別に、希望者が減っているわけではないと思いますよ。むしろ勤務が過酷なため身体を壊したりして辞めたり、途中で他の道に転じたりする人が多い、というのが実情だと思います。ただ、小児科医の労働環境は、小児科医をもっとバランスよく配置するだけで、かなり改善されると思います。というのは、小児科医は絶対数も足りませんが、人の分散が悪いのです。「ひとり医長」という言葉――「医長」は一般企業の「係長」に当たります――があります。病院の小児科に医長の医師が一人しかいない、という意味なんですが、実際1つの病院に小児科医が1人しかいない病院は全体の27%、2人の病院は22%で、つまり小児科医が2人以下の病院が約半分なんですね。実際、何100床もあるような総合病院でも、そういうところはたくさんあります。本来、院内の人間だけで当直をまわすには7人ぐらいの医師が必要だと言われていますが、7人以上小児科医がいる病院は全体の15%しかない。残りの85%の病院は、バイトの小児科医を雇って救急外来をしてもらうか、専門ではない内科医がこどもも見るか、小児科の救急は行わないか、になるわけです。
上原:ばらばらに分散している小児科医を集めて、7人以上いる病院を増やした方が効率が良いわけですね。どうしてそれができないのでしょうか…。
早川:どうも、病院に小児科があると自治体からの援助が多くなったり、地域住民からのうけがよくなったりと、いろいろ病院経営上利点が多いようで、それが分散の一因かもしれません。でも私も少人数の小児科を合併させて大きくした方がよいと思いますし、そもそも病院自体も、小~中規模の病院をいくつか合併して1000床以上の病院を作った方がいいと思っています。地域の反対があるかもしれませんが、病院はそれぐらいの規模にならないと高水準の医療を提供するのは難しいのです。若い医師の教育の面からも、その方が望ましいと思います。最近は市町村の合併がはやっていますが、それと同じ理屈ですね。あるいは、「熊本方式」というものもあります。熊本で20年前から行われているやり方なんですが、地域医療センターという医師会の施設で、熊本市と近隣の小児科開業医たちが交代で救急を行っています。(参照)
上原:システムさえ整えば、すぐにでも実現できそうなのに……。
早川:私もやろうと思えば、できると思いますよ。人が足りないのはすぐには改善できないけれど、システムならすぐにでも変えていくことができる。実際、熊本方式を始めている自治体もありますし、都立病院は合併に取り組んでいます。簡単そうなのにそれができない一番の理由は、日本は公立病院が少なくて民間病院が圧倒的に多いからでしょう。民間同士だといろいろな利害が対立してなかなかスムーズに行かない。ただし、一般企業でも合併はとても増えていますから、病院同士の合併も今後増えるかもしれませんね。
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