心の病は、社会の病。

みんなが幸せに生きていけるように、より良い社会を求めて。

2010年3月15日月曜日

早川先生(9):青少年の心の問題

大森:近年とみに、青少年の心の病、引きこもり、悲惨な犯罪などが社会的な問題になっています。事件が起きると、マスコミなどでは、よくフロイトのエディプスコンプレックス理論などが取りざたされているようですが、先生はどうお考えですか?

早川:今の精神医学の世界で、フロイトの理論だけで臨床に当たっている人はほとんどいないと思います。ただ、フロイトの理論を発展させていった人たちがいるわけですが、それらはとても有効でよく利用されています。その意味では、現在でも精神医学にフロイトの理論は生きていると言えるでしょう。
 小児精神の分野でよく使われるのは、エリクソンとウィニコットです。エリクソンは発達理論で有名ですが、フロイトに比べて社会と自我との関係を重視しています。ウィニコットは対象関係論で有名です。対象関係論は、赤ちゃんと母親を一体のものと見なし、そこから移行対象という“母親代わり”(ぬいぐるみとかがそれに当たります)のものに依存しながら自立していく、という考え方です。
 そういった基礎的な理論に基づいて、最近では「こどもの発達には、[安定した信頼関係の構築=母性]と、[社会化を促進するもの=父性]の2つが必要である」という考え方があります。ただ、フロイト自身も[母性=ヴァギナ=器=自分のことを受け入れてくれる存在][父性=ペニス=刀=悪いものから自分を切り離すもの]というようなことを言っていたようですね。

大森:なるほど。小児精神の発達には、「安定した信頼関係」と「社会化の促進」が大切なのですね。

早川:そう。そんなに難しいことではないんです。そして一般的には、前者の役割を母親が、後者を父親が果たします。でも、別にそれは逆でもかまわないし、看護婦さんでも医者でも先生でも誰でもかまわないんです。ただし、子供が混乱しないように、母性と父性の対象はできれば別々の方がいいでしょう。
 ただ、精神の安定の面で大切なのは、やはり「安定した信頼関係」の方でしょう。

大森:やはり、母親との関係ですか。

早川:ええ。安定した信頼関係があるからこそ大きな不安を伴う社会化も可能なわけで、まだ信頼関係が弱い時にその子のキャパシティを超えることをすると、外に向かって挑戦していくことを怖がったり心のバランスを崩したりするので、その子の発達段階に合ったことをしていく必要があります。

大森:父親の存在はどうなんでしょう。

早川:最近のお父さんはなんだかあんまり自信を持てない人が多いみたいで、そんな風になっているお父さんが子供に社会化を促しても……。
そのせいか、最近「男の子の方が社会化が難しい」なんて言われています。なぜなら、こどもの頃に安定した信頼関係を作る相手は母親=女性で、男の子にとっては異性だからです。男の子の場合、社会化していくときに自分と同性のロールモデルが身近にいないと、どうすればいいかわからなくなってしまう。本来は父親がその役割を果たす必要があるんですけれど、最近のお父さんは家にあまりいなかったり、いたとしても母性的な父親が多いようであまり男の子ロールモデルにならない。一方、女の子の場合は、お母さんを自分がロールモデルとしながら社会化していけばいいから、とてもやりやすいわけです。
 いずれにせよ、こどもの精神発達においては、信頼関係と社会化を促すものの双方が必要です。「フロイト的なもの」はそういう形で生き残っていると言えるでしょう。

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