上原:ところで山本先生は、どんな先生だったのでしょうか?
早川:当時40歳ちょっとぐらいだったかな、僻地医療を転々とやって来られた方で、現在は札幌医大で地域医学講座の教授をされています。かなり面白い方でね、「いま、暇だから、毎日おいで」なんて言われました。いくつになっても偉ぶったところが全然なくて、僕らを行きつけのラーメン屋に連れて行ってくれるような方です。そして、先生はナラティブ・ベイスド・メディスンという、「人の物語を大切にする医療」の第一人者なんです。それは、患者さんの一生のストーリーを聞く中で、その人の問題になっている部分を解き明かしていく医療のことです。「かかわりに基づく医療」とも言えます。僕が山本先生から受けた影響はたくさんありますよ。
上原:たとえば?
早川:山本先生の口癖に、「僕はね、狐がついたと思っている患者さんには、お払いに行けと言うんだよ」というのがあって(笑)。「それが一番効くから。治ればそれでいいんだ」と。その頃から、考え方がナラティブ・ベイスド・メディスン※なんですよね。患者を無理やり医学に引きづり込むのではなくて、その人の人生、一生を大事にする考え方です。それで、僕は医学に対するイメージ、印象が変わりました。山本先生は孤軍奮闘でやってきた方ですが、こういう先生もいるんだな、こういう風になればいいんだって思ったんです。山本先生は、僕の中のロールモデルなんです。
大森:確かに人間は、時間の積み重ねの中で生きていくわけで、それぞれの人に独自の歴史、物語があります。その物語の中には、その人自身の生き方や価値観がある。そうした心と身体がひとつになって『その人である』わけで。だから、その人の物語を無視して、身体だけを科学的に診るやり方では、必ずしも適切な治療が行えるとは言い難い。早川先生は、そんなナラティブ・ベイスド・メディスンの可能性にひかれたわけですね。
早川:大学1年の間に、医師を志す気持ちは固まっていましたね。すぐに医学部を受けることも考えたけれど、結局3年までに単位を全部取って、4年には東京に戻って1年勉強し、医学部を受験して学士入学しました。
※ナラティブ・ベイスド・メディスンについて詳しくは、後日改めてふれます。
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