心の病は、社会の病。

みんなが幸せに生きていけるように、より良い社会を求めて。

2010年3月16日火曜日

小児医療の論点――第1回 小児科医の不足について考える「小児科医は増えているのに足らないのはなぜ?」

はじめまして。医師の早川と申します。
大森さん、上原さんとはふとしたきっかけで知り合い、その後もいろいろとお話させていただきました。
その話の中で、「みんなが幸せになれる医療」への投稿の話が出て、私も大森さん、上原さんの問題意識に感じるところがあり、今回投稿させていただくことにしました。
私自身、医療の世界に入る以前、社会学や教育学を学んだりしていたので、社会批評的な視点を持ちながら医療に取り組んでいるように感じています。
それが私のスタンスだと思います。
さて、細かいことはまた追々として、本題に入りましょう。

上原さんからの問は、①小児科医不足の問題、②小児救急の問題、特に③小児救急を利用する側の問題、の3点になると思います。
この内、①②は一般によく言われていることですが、実はなにが問題なのかよくわからない、ということではないかと思います。
そして③は、①②とも関係するとても大事な問題なのですが、とてもナイーブな問題なためになかなか触れられずにきた問題のように思います。
いずれもとても大事なことなので、まずは一つ一つ検討しましょう。

①小児科医不足の問題
これについては厚生労働省のホームページに基礎資料があります。
これは、「医師の需給に関する検討会」の第3回検討会に日本小児科学会が2005年4月6日に提出した資料で、現在の小児医療を知るためのよい基礎資料だと思います。かなり長い文章ですが、ポイントは、
・小児科医師がかなりの過剰労働を強いられている。
・女性小児科医師が年齢が上がるとともに減少している。
・コストのかかる小児科を切り捨てる民間病院の増加している。
・小児科医が小さな施設に分散しているため過剰労働になっている。
ということだと思います。
さて、このホームページの表1、図1、図2をよーく見ていただきたいのですが、実は小児科医の数自体は微増ですが増えているんです。産婦人科医は明らかに減っていますが、小児科医は勤務医、開業医ともに増えている。

ではいったいなにが「不足」しているのか。ここで参考になるのが、図1の麻酔科医のグラフです。
図1にある通り、麻酔科医の数は大きく増えています。しかし、昨今のニュース(例えば最近では、がんセンター中央病院での麻酔科医不足の話にもあるように、麻酔科医も足らないと言われています。実は、先の「医師の需給に関する検討会」は、数ある医師の専門科の内、小児科医、産婦人科医、麻酔科医の3つを医師数が「足りていない科」として検討しているんです(ちなみに麻酔科医の資料)。しかしこの内、実数が減っているのは産婦人科だけで、小児科医と麻酔科医は数は増えているのに足らない――。これはどういうことかと言えば、「3Kでお金にならない仕事をする医師が減っている」ということなんです。

例えば、麻酔科医の中でも、緊急手術でいつ呼び出されるかわからないような勤務はとても大変です。それと比べて、ペインクリニックや、待機手術しかしないような勤務は安定しているしとてもラクで、しかも安全です。この「安全」はとても大事で、実は先の小児科医、産婦人科医、麻酔科医は、医師の中でも訴訟されやすい分野なんです。さらに、その安全でラクな勤務の方が、給料が高くなる場合もあるんです。先ほどの麻酔科医についてのがんセンターのニュースには、「がんセンターでは給与は年間700~800万円だが、民間病院なら1000万円半ばから数千万円になる」という記載があります。これだけの差があるとして、民間病院を選択することをとがめるのは難しいと思います。
考えてみてください。[勤務時間は不定期で長い、ストレスも高い、さらに訴訟の危険も高い]仕事と、[勤務時間は決まっていて短い、ストレスも低い、そして訴訟の危険も低い]仕事の2つを選べるとして、しかも給料が変わらない、ましてやラクな勤務の方が給料が高かったとしたら、あなたはどちらを選びますか?ラクな仕事に移る医師を、あなたは責められますか?
小児科医もこれと似たような状況にあります。すなわち、「小児科医自体は増えているが、大変な部分を担当してもあまり報われないこともあって、大変な部分を担当する医師が減ってきている」ということです。

このような話をすると、よく言われるのが「医師の倫理性」です。
すなわち、「医師はお金のためではなく、人々のために奉仕するべきだ」という考え方ですね。
この気持ちはよくわかりますし、私も以前そう思っていましたし、多くの小児科医はそのような「一種の使命感」を持っているのではないでしょうか。しかし、その使命感ゆえに小児医療は危機に瀕することになってしまったのだと思います。
先ほどの厚生労働省のホームページの表5,6,7と図11,12,13を見てください。これほどの過剰勤務になぜ小児科医は耐えているのか。
「子どものため」という使命感に他ならないと思います。
しかし、使命感だけではもはやどうにもならないところまできています。身体を壊す医師もいますし、過労死もありえます。さらに、医学生が小児科の将来に希望を見出せず希望する人が減るとしたら、もはや存亡の危機でしょう。
私は小児科の現状は、小児科医師の奉仕の精神でギリギリもっているのだと思います。
しかし、それでいいのでしょうか。私たちの子どもの命を、このような風前の灯の下においてよいのでしょうか。もっと、確かに守っていくのが、大人の使命ではないでしょうか。
小児科医師の奉仕の精神は、今にも燃え尽きんとしていると思います。それでも「お金じゃない。気持ちだ」というのか。私はそれは欺瞞だと思います。
小児救急を行政サービスと考えるならば、やはりきちんとしたペイメントを払って、医師を安定的に確保できるようにしないといけないと思います。

そして、この「倫理性と報酬」の問題は、医療以外で高い倫理性が求められる職種――教員、官僚などで生じている問題とも根を同じくするような問題のように感じられるのですが、いかがでしょうか?
(次回に続く。次回は水曜日に投稿予定)

0 件のコメント:

コメントを投稿