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2010年3月16日火曜日

小児医療の論点――第2回 小児救急について考える「命に関わる小児救急は二次三次」

こんばんわ。前回に引き続き早川です。
前回は、小児科医不足の問題を検討しました。小児科医数自体は決して減ってはいませんが、労働の実態(大変さ、質、危険度)と給与があまりにアンバランスで、それは子どもの生命の安全を確保する意味でも「医師の倫理性」持ち出して解決するような問題ではない、というお話をしました。

資本主義社会の中では、いかに医師が公共性の高い職業とは言え、よりよい条件を求めて職場を選択するのは当然と言えると思います。むしろ、医師の倫理性が高く、「少ない給料で危険な仕事にも従事していたからなかなか問題が露見せず、こんなゆがんだ状態にまでなってしまった」と言えるかもしれません。さて、今日はその話とつながっていますが、小児救急の話です。

②小児救急の問題

さて、前回の麻酔科医の例、先に出てきた「労働の実態(大変さ、質、危険度)と給与があまりにアンバランス」の好例が、まさに小児救急です。
小児救急は、小児科医の仕事の中でももっとも大変と言ってよいと思います。
小児救急が難しいのは、内科や外科の救急と違って、小児科医しかできないということです。内科の当直ならば消化器科、呼吸器科、循環器科など様々な科の医師が担当できます。同様に、外科の当直も消化器外科、泌尿器科、脳外科…というように、いろいろな科が交代で当直するので、各医師の当直の負担は軽いのです。しかし小児科は小児科だけで当直を担当しないといけないので、負担は膨大になります。実際、他の科では月の当直回数は2-3回ですが、小児科では少なくて月に4回、多いところでは月に8回もの当直に取り組んでいることになります(参照の図12)。さらに、小児科は昨今、女子学生が志望する比率が高くなっています。それはとても喜ばしいことなのですが、一方で図14、15あるように、育児を行う女性医師はどうしても勤務時間が短く、また育児のために休職することも多くなります。すなわち、小児救急に携わることは難しくなり、残された者たちの負担はますます増加してしまう、というのが現状なんです。

ここで少し補足しておくと、小児科で女医さんが増えるのはとてもよいことと思っています。お子さんのお母様方としても女医さんのほうが相談しやすいこともあるでしょうから。ただ、現在の医療システムは、せっかくの人材を生かしきれていないと思います。育児が少し落ち着いて余裕が出てくると、時間限定で診察を再開したいと考える小児科の女医さんは案外少なくないように思います。しかし今のシステムでは、そのような意欲のある女医さんが復職しにくい状況にあります。やりがいのある仕事が与えられませんし、「当直ができないなら雇えない」という病院もあります。「小児科は不採算部門だから閉鎖しよう」という病院が多いのが現状ですから、当然と言えば当然なのですが。

でも、そのような女医さんにこそしてもらいたいような仕事はいっぱいあります。検診の仕事や教育や福祉関係の仕事です。子どもを育てているからこそ強い関心を持って取り組める仕事でしょう。また、託児所や病児保育の問題もあります。働きたくても子どもが預けられず働けない――ただこの問題は他の仕事も同じと言えばそうですが、小児科医不足が話題になって「いかに小児科希望者を増やすか」などという見当違いでいつになったら効果が現れるのかわからないような話を聞くたびに、「それよりも今の小児科医が働きやすい環境を作って今の小児科医を有効活用してもらった方が、ずっと有効だし即効性あるのにな」とつい思ってしまうわけです。

ちょっと脱線しましたが、本題に戻りましょう。
さて、小児救急については、昨今、各自治体も行政サービスとして小児科の夜間救急診療所を作ったりしていることがよく見られます。これは、地域住民の要望により、かなりの高額の給料を払うことで当直医を集めているわけですが、これには注意が必要です。
小児科に限らず救急医療は「一次、二次、三次」という段階があります。簡単に言うと、一次は外来だけで入院が必要のない救急、二次は入院が必要なレベル、三次は集中的な治療が必要な重度の救急ということです。この中でいま各自治体が行政サービスとして行なっているのは一次救急になります。しかし、少し考えればわかることですが、子どもの命を守るのは一次ではなく二次、そして三次救急です。厳しい言い方をすれば、一次救急の大半は「明日でもかまわない」ようなものであり、「親の不安を支えている」ものです。そして、実はいま小児救急で問題になっているのは、一次救急をできる医者はいても、二次、三次救急をやる医者が減ってしまっているということなんです。

この原因として、私は2つのことを考えます。1つ目は先ほどから挙がっている勤務条件と報酬の問題です。各自治体がやっている一次の小児救急では、人が集まらない場合には高額な報酬を払っていることもあるようですが、残念ながら二次、三次救急の医師は決して報われていません。医療としては高度なことをしているのにもかかわらず、報酬として報われないとしたら…。特に、救急という仕事は高次になるほど緊張感も高く消耗しますから、少ない勤務時間で高い報酬が得られるべきでしょう。そうしないと燃え尽きてしまい長く勤務できずにやめていくことになってしまいます。

そしてもう一つが、小児科医が特定の病院に集中して勤務せず、少人数に分かれてしまってるということなんです。これは、何度も挙げている厚生労働省の資料の表8に書いてあります。例えば、月に4回の当直だとすると、30日回すためには7-8人が必要です。さらに、三次のような高度な救急をするためには、毎晩2人で当直する必要がありますから、月に4回の当直なら15人必要なんです。

しかし、全国の小児科のうち、6人以下の病院が84%を占めており、10人以上の病院は7%に過ぎません。若手医師の立場からすると、医師の数が少ないところではベテランの先生から教われないので見よう見まねで自分でやるしかなく、自分が成長できない心配があるのであまり人が集まりません。国立成育医療センターやその他の小児病院に、たとえ給料が安くても若手の医師が多数集まるのは、若者の向学心から言って当然でしょう。ですから、小児救急が厳しいと言われているところでは、小児科医を一箇所に集め、高次の救急に取り組む者に高い給料を払うようにすれば、よいと思います。

しかしここで重大な問題が出現します。つまり、地域住民のニーズです。実は、二次、三次救急は、実際はお世話にならない人が多いので、その重要性が伝わらず、あまり重視されないんです。しかし、二次三次救急が充実していないと、いざと言う時には命に関わってしまう。そして、お金に限りはあるから、二次三次を充実させれば当然一次救急にはあまり資本投下がされなくなります。それでよいのかどうか。それを決めるのはやっぱり市民です。

ただここが重要なのですが、「すでに小児救急の地域格差ははっきりとある」んです。自治体によっては、「お金がかかるから三次救急はやらない」という方針もあるようです。それはすなわち、「地域によって子どもの命の安全が違う」ということです。それでよいのでしょうか?
私は時々思うんです。不動産選びの時にどうしてこういう情報が重視されないんだろうかって。24時間営業のスーパーよりも、安心して任せられる高次医療機関が近くにあることの方がずっと大事だと思います。
(第3回に続く。次回は月曜日に投稿予定)

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